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海洋資源環境研究所

海洋資源環境研究所はエネルギー資源及び生物資源を対象とした新技術の調査及び企画し、その開発を行い、市場に導入することを目的として設立いたしました。 当研究所は、エネルギー資源及び生物資源に有用な技術を開発するために、現在、すでに市場に導入され成功している事例を調査し、将来的に開発が期待される技術について検討・研究を行います。 さらに、エネルギー資源及び生物資源と環境の関係についての現存する知見に関して調査し、新技術が期待される分野を研究開発する部門です。


所長の山崎秀勝(東京海洋大学名誉教授、上海海洋大学特別教授)は、これまで海洋微細構造(乱流・拡散過程)を中心に研究を行い、物理過程のみならず、動植物プランクトンなどの生態系と物理環境との関係について調査・研究を行ってきました。 特に、近年、プランクトンの微細な分布状態が魚類を含めた生態系の動態に大きな影響を与えることを明らかにしてきました。 本研究所においてはこれらの基礎的な知見を応用的な技術の開発を目指し、藻場再生等の海洋資源の回復、水産業の発展及び洋上風力発電等再生可能エネルギーや脱炭素化社会の実現に向けた取り組みを続けてまいります。

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所長紹介

山崎 秀勝

Ph.D., Texas A&M University Major: Ocean Engineering

アルファ水工コンサルタンツ シニアフェロー

上海海洋大学特別教授(Distinguished Professor)

東京海洋大学名誉教授(Emeritus Professor)

研究分野

主に植物プランクトン及び動物プランクトンが生息する物理環境を二つの視点にたって研究しています。 ひとつは、プランクトン個体レベルの物理環境(乱流・拡散等)がプランクトンの生態及びその分布に及ぼす影響についてです。 ふたつ目として、乱流と諸現象(内部波や海流等)との関係について研究しています。さらに、魚類などの大型の生物の分布状態と物理環境との関係についても調べています。

主な論文
  • 1) Tanaka, M., A. Genin, Y. Endo, G.N. Ivey and H.Yamazaki, 2020: Modulation of demersal zooplankton migration by turbulence: evidence from the North Pacific and the Red Sea. Limnology and Oceanography, DOI: 10.1002/lno.11646*

  • 2) Chen, B., E. Masunaga, S.L. Smith and H.Yamazaki, 2020: Effect of diel migration on zooplankton dispersion and patchiness. J. Oceanogr., doi.org/10.1007/s10872-020-00564-4.

  • 3) Priyadarshi, A., R. Chandra, S.L. Smith and H.Yamazaki 2021: Environmental heterogeneity enhances transfer efficiency in a model of the food chain from plankton to fish. J. Mar. Sys., https://doi.org/10.1016/j.jmarsys.2021.103555*

  • 4) Priyadarshi, A., R. Chandra, M.J. Kishi, S.L. Smith and H.Yamazaki 2021: Understanding plankton ecosystem dynamics under realistic micro-scale variability requires modelling at least three tropic levels. Ecological Modelling (submitted)*.

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業務実績

コラム

水産土木工学と水産海洋学の融和

本コラムは、主に、水産海洋学に関する話題を提供することを考えていますが、初めに、アルファ水工コンサルタンツに海洋資源環境研究所が設立された経緯について述べさせていただきます。 水産土木工学とは、工学的な技術で水産業に貢献する分野です。水産海洋学とは、海洋の物理現象、化学的な現象、さらに生物の生態系の機構を総合的に捉えることにより水産資源の変動を予測することを究極の目的にしています。 水産海洋学そのものについては、次回の「水産海洋学の黎明期と宇田道隆先生」の中でご紹介したいと思います。水産土木工学も水産海洋学も対象とするのは水産資源です。一方が、工学的な手法であり、もう一方は科学的な手法です。 手法は違いますが、双方とも長い年月をかけて蓄積されてきた「水産」を対象とする学問です。どの学問分野にも言えることですが学問が細分化されていくと、それぞれの細分化された分野ごとに壁を作りお互いを排除するような傾向が生まれます。 まして、工学と科学では水と油のような関係かもしれません。アルファ水工コンサルタンツは水産土木工学を生業としているコンサルタント会社です。 この組織の中に水産海洋学を中心とした海洋資源環境研究所を設立したのは、この水と油のような存在を融和させることにより近未来の新たな産業の展開を期待しているからです。

少し、手前味噌になるかもしれませんが私がアルファ水工コンサルタンツに籍を置くまでの経緯と、私と水産海洋学との関係について説明させていただきます。私は、1973年4月に東海大学海洋学部海洋土木工学科に入学しました。 当時は、工学畑を出れば食っていけるといわれた時代でした。海なし県(埼玉)で生まれ育ったのですが、なんとなく海洋というサウンドに惹かれました。ご多分に漏れず学部時代はアルバイトばかりしてあまり勉強をしませんでしたが、卒論を農業土木試験場(現在の水産工学研究所)で行う機会に恵まれました。 研究課題は魚礁に作用する波力に関することで、水路実験を行いました。この時、直接指導していただいたのは上北先生であり、貴重な助言をいただいていたのが今は亡き中村先生です。それまで研究に触れることはありませんでしたが実験を進めていくに従い、その世界にのめり込んでいきました。 この時が水産土木工学の世界に入っていく始まりでした。農業土木試験場では、卒論ばかりでなく修論もお世話になりました。修士論文の研究もやはり波力について行いました。

その後、民間のコンサルタント会社に一時籍を置きましたが、更なる研究を追求したくて米国に留学することにしました。留学先はテキサスA&M大学でした。この大学の土木工学科海洋工学プログラムに博士課程の学生として入学しました。 博士課程でも幸い波の研究をすることができました。博士課程修了後、帰国することも考えたのですが、いっそこちらでもう少し研究を続けてみようかと考えポストドクの職に応募してみることにしました。私の人生の大きな転機は、農業土木試験場に行ったことと、この時ポストドクに応募したことです。 このような経験から、常に、学生達に「誰にでも必ずチャンスは巡ってくる、成功するかしないかはいかにそのチャンスを掴むか」だと言ってきました。採用となったポストドクの仕事は海洋学のMicrostructuresと呼ばれる分野の研究です。 この時まで、私は水産土木工学に貢献したかったので今度の仕事と水産土木工学を結びつけることは出来ないか考えてみました。Ocean microstructuresの研究とは海洋における乱流及び混合過程を究明する分野です。水産資源の基盤を成しているのは基礎生産者(植物プランクトン)であり、さらに二次生産者(動物プランクトン)です。 そこで乱流とプランクトンの関係をいずれ研究してみようと考えました。これが水産海洋学へ向かっていく発端です。学位取得後、テキサスを離れ、California州のMontereyにあるNaval Postgraduate School(NPS)に籍を置きました。私を雇ったのはProf. Lueckでしたが、研究室には海洋の乱流研究の大家であるProf. Osbornがいました。 海洋物理関連の研究者であればOsbornを知らない人はいませんが、彼がいかに動物的な感に優れているか身をもって経験した人は少ないと思います。私が、プランクトンと乱流の関係に興味があることを彼に打ち明けていたので、新たに立ち上げようとしていた国際プロジェクトGLOBEC (Global Ocean Ecosystem Dynamics)に参加しないかと声をかけてくれました。 彼は、この時点で、東海岸にあるJohns Hopkins University (JHU)のChesapeake Bay Institute (CBI)に移っていました。これが更なる転機となり、私はGLOBECと深く関わっていくことになりました。GLOBECは2次生産者(動物プランクトン)に焦点を当て、海洋の生物資源の動態を研究しようとするプログラムでした(図1)。GLOBECでは2次生産者と特に関係のある物理過程として乱流に焦点が当てられました。正しく、私が推し進めようとしていた研究課題でした。 CBIには、5年間、籍を置きました。この間、GLOBECに関わりながら多くの研究成果を上げることができました。また、研究資金もNational Science Foundation(NSF)やOffice of Naval Research (ONR)からいただけるようになりました。


図1 GLOECは低次生産者の動物プランクトンに焦点を当て海洋の生態系の動態と魚類などの水産資源の変動を究明することを試みた国際プロジェクトです。

1987年という年は、リーマンショックに相当するBlack Mondayが起こった年です。 忘れもしない10月の穏やかな月曜日の朝、その時がやってきました。突然の株式市場の大暴落です。JHUはかなりの資産を株式市場に投資していたため莫大な赤字を抱えることになりました。 このため、余剰資産を手放すことになり、その一つのターゲットがCBIでした。CBIは1991年までに閉鎖されることが決定され、私は次の行き先を探しました。この時、University of Victoria(UVic)におられたProf. Garrettに声をかけていただきSchool of Earth and Ocean Science(SEOS)に移籍しました。 UVicはカナダにありますので、別の国に移動したわけです。カナダと米国は同じようなものかと思っていましたが制度も風土も全く違うところです。SEOSでさらにGLOBEC関連の研究を続けておりましたが、縁あって1993年に東京海大学(旧東京水産大学)に移りました。私の人生はピンボールのようにあちこち移動し忙しかったですが、たくさんの良い研究者と巡り会え、多くの優秀な学生を育てることができて本当にラッキーだったと思います。


図2 初代の微細構造観測プロファイラーTurboMAP
東京海洋大学に移籍してきてからは、それまでProf. Lueckらが開発した微細構造の測器が使えなくなったので国内で開発することに努めました。Prof. LueckとJFEアドバンテック(旧アレック電子) の協力により、東京海洋大学を退職するまでに3種類 (TurboMAP 図2; TurboMAP-L 図3; TurboMAP-G 図4)の微細構造観測装置を開発し、さらに沿岸観測に適したYODA Profiler(図5)なども開発しました。 また、海洋大での終盤にはJapan Science and Technology Agency (JST)のCore Research for Evolutional Science and Technology (CREST)を取ることができCable Observatory (図6)を日本で初めて導入することができました。微細構造とプランクトンの関係については、この間、継続して行っており、植物プランクトンも動物プランクトンも微細な分布をしていることがわかってきました。 また、この状態を再現した数値モデルをCRESTで採用したポストドクと共同で開発し、プランクトンの微細な分布状態が魚類の生物資源量に変動に大きな役割を果たしていることがわかってきました。これが私と水産海洋学についての略歴です。水産海洋学の研究を続けてきておりましたが、一度として水産土木工学のことを忘れたことはありませんでした。


図3 微細構造観測プロファイラーTurboMAP-L この第二世代の測器にはLEDベースの蛍光光度計とLaserを使った蛍光光度計を搭載しており、mm単位の微細な植物プランクトンの分布状態を計測することができます。

図4 微細構造観測プロファイラーTurboMAP-G この第三世代の測器は翼をもっており準水平な観測を行うことができて、微細構造の水平的な分布状態を知ることができます。これまでの計測器は自由落下式のプロファイラーであったため鉛直方向の分布状態しか測れませんでした。

図5 沿岸域を高解像で観測することができるYODA Profiler (JFEアドバンテック)です。
これまでの通常のCTDでは右側の例のような塩分の詳細な分布状態を計測することは出来ませんでした。

図6 CRESTで採用したCable Observatory(CO)です。海底に設置されたノードは地上局とケーブルで結ばれています。ノードには様々な計測器が搭載されており長期間のデータをリアルタイムで取ることが出来ます。

水産土木工学は中村先生を中心にした水産工学研究所に関係のある人たちが盛り立ててきました。近年まで、水産工学研究所で卒論ないし修論を行なったことのある卒業生を中心にして中村先生を囲んだ「七夕の会」が開催されていました。参加者は年々減ってきていましたが全国から卒業生が駆けつけました。残念ながら中村先生は、2021年の春、他界されました。 コロナ禍のために2019年の「七夕の会」が最後となりました。中村先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。これからも中村先生が立ち上げた「水産土木工学」のスピリッツは先生の意思を継ぐ者によって受け継がれ発展しいくに違いありません。私も微力ながら尽力を注ぐつもりです。

縁あって私は、東京海洋大学を退職後、2020年の春から弊社で働かせていただいております。私のこの会社における使命は、これまでの経験を生かして外部資金を調達し、新たな事業プロジェクトを立ち上げ、会社にとっての新事業に結びつけていくことです。 2020年9月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」として2020年度2度目の公募がありました。私はCRESTでの経験を生かして「洋上風力発電施設の魚礁効果を定量的に予測するシステム開発」の研究課題を提案しました (図7)。 本課題では広域数値モデル(ROMS)と高解像度数値モデル(SUNTANS)を組み合わせて洋上風力発電施設による混合効果を定量化し、動植物プランクトンの生産量を予測するシステムとその効果を現場でモニターするAIシステムの開発を行なっております。これらの数値モデルを応用することにより構造物を設ける前に、その効果が生態系に与える影響を評価し、漁業者にとって有益な情報を提供することを意図しています。 この提案はNEDOから採用していただき、現在、そのAステージに取り組んでいます。このプロジェクトは、正に、水産海洋学と水産土木工学を融合させたものであると考えています。


図7 洋上風力発電所がもたらす混合効果を定量的に推定し、プランクトン生態系の動態を予測するシステムを構築します。